スエズ運河座礁事故から学ぶ海上保険①海難事故に伴う費用
スエズ運河で座礁したEVER GIVEN号、いよいよスエズ運河のグレートビター湖を出航
今年3月にスエズ運河にて座礁したEVER GIVEN号(G/T 219,079トン、20,124TEU)が、100日余り経った7月7日に足止めされていたスエズ運河のグレートビター湖を出航したと正栄汽船㈱様よりプレス発表がありました。http://www.shoei-kisen.com/shared/210707.html
アジアと欧州を結ぶ海上航路の要スエズ運河での座礁事故ということで、世界的に国際海上物流の麻痺が騒がれ、また普段お目にかかれない超大型コンテナ船の離礁作業ということで連日連夜報道されたのは記憶に新しいところですね。
本日は、座礁等の海難事故に伴う費用についてまとめてみます。
海難事故でかかる費用
1.座礁時のレスキュー判断は誰が行うの?
船舶が航海中に、不幸なことに座礁・衝突・火災などの危険な海難事故に遭遇したとします。
危険な状態にあるのは船舶だけではなく、その船舶に積載された貨物・乗組員も同じなので、こういった緊急状態を船舶と貨物が共同の危険にさらされた状態と呼びます。
このような緊急事態から脱出するために、船長の判断で速やかに緊急処置をとることがあります。
緊急処置というのは、たとえば座礁した船舶を軽くして浮かせるために船上の貨物をどんどん海上へ投荷したり、それでも浮かないときは救助船(サルベージ船)を呼び寄せたりすることです。
2.緊急処置に伴う各種費用の捻出は?
このような緊急処置には必ず、何らかの物の損害(船の損傷や海上に投荷された貨物の損害)や多額な費用の支出(離礁させるためのサルベージ費用)が発生します。
もしこれが、海上に投荷されず助かった貨物は「投げ捨てられなくて助かったね~」と貨物を引き取って終わり、投荷された貨物は運が悪かったんだと諦めるしかない…というのだと、投荷された貨物の所有者があまりにかわいそうですが、実際はそんなことにはなりません。
船舶や残りの無事だった貨物は、言い換えれば、緊急処置により投荷された他の貨物や救助船のおかげで共同の危険から脱出でき助かったとも言えます。
そこでこのような損害や費用は、無事に助かった船舶と貨物で共同に負担し、利害関係者間で助け合いましょうという国際統一規則が定められました。
単純に投げ捨てられた貨物は運が悪かったね、残った貨物は運がよかったね、…とはならない決まりがきちんとあるんですね。
この規則をヨーク・アントワープ規則と言い、1877年に決議され、現在も準拠しています(船荷証券の裏面約款に記載)。
また、この共同負担の制度を「共同海損」と呼び、その英語表記”General Average”の頭文字をとってG.A.と呼ばれています。
国内では聞き慣れないルールですよね。
今回の座礁事故では、船の損傷、海上投荷、サルベージ等に加え、船が座礁しスエズ運河の通航を妨げていた間にスエズ運河庁に入るはずだった通行料の損失、さらには通行を妨げたために間接的に発生したビジネスへの損失なども賠償に含まれるのではと言われています。
このような巨額の賠償で共同海損が宣言されたら一体どうなってしまうのでしょう。
次回は、共同海損が発せられたら?について、まとめてみます。