直接貿易も怖くない!貿易の8大リスクとその回避方法を徹底解説【後編】

直接貿易も怖くない!貿易の8大リスクとその回避方法徹底解説 後編

こんにちは、AIBA認定貿易アドバイザーの石川です!

前回は貿易における8大リスクの内、「言語リスク」「輸出入規制リスク」「為替リスク」「輸送リスク」の4つを解説しました。

今回は後編として、より会社として大きな損失を出してしまう可能性のある残りの4つのリスクとその回避方法を徹底解説します。
貿易で大きな損失を出さないために、しっかり学んでリスクを回避しましょう!


この記事はこんな方におすすめです
・海外展開を始めたいけれど、貿易ってなんとなく危なそうだな、と思っている方
・貿易を行う際にはどういったリスクやリスクの回避方法があるのか知りたい方
・現在商社を通した貿易をしていて、直接貿易を始めてみたいがリスクが心配でなかなか踏み出せない方

リスク5 代金回収のリスクとその回避方法

輸出取引の場合、先方を信用して先に商品を送ったのに代金が入ってこなかった…というケースがよくあります。
貿易取引に限りませんが、商取引はきっちり代金回収して利益を得てこそ成功となります。代金の未回収を確実に回避する方法を学び、情に流されることなく、ビジネスの視点でしっかり対処していきましょう。

代金回収リスクの具体例

まず、代金回収リスクの具体例について紹介します。

取引相手の信用調査不足

取引相手が国内の企業であれば帝国データバンクのように信用調査を行ってくれる会社もありますし、インターネットで社名を検索したりするだけでもある程度の情報を得ることができます。
しかし取引相手が外国の企業の場合は、取引相手の信用力(ちゃんとお金を払ってくれるか、資金的に危ない会社ではないか、そもそも会社が実在するのか)という情報をなかなか簡単に得ることができず、その結果商品をだまし取られてしまったということがあります。

支払条件

国内取引の場合は掛け払い(月末締めの翌月末払いなど)が多いと思いますが、貿易取引の場合は基本的に案件ごとに決済を行います。
その際に問題になるのが「先払いか、後払いか」ということです。
輸出者から見ると、商品を送ってお金が入ってこないという事態を避けるために、100%前払いで商品代金をもらってから貨物を出荷したいですよね。
一方輸入者から見ると、お金を送金したのに商品がこない(もしくは注文したものと違う商品が届いた等)という事態は避けたいので、商品を受け取って検品してからお金を支払いたいというのが本音です。
お互いが希望を譲らないと取引が先に進まないというリスクもありますし、輸入者から「後払いじゃないと買わない」と強硬に押し切られ、その結果商品を先に送ったものの代金が支払われなかった、というケースもよく発生しています。

カントリーリスク

輸入者に問題がなくても、国によっては政情不安やテロ行為、頻繁な法律の変更などで輸出入がうまくいかないケースがあります。
最近ですとロシアやウクライナの一部地域宛の荷物が輸出規制を受けたり、中国が処理水の放出を問題化して日本からの水産物の輸入を停止したりすることがありました。
このように、取引相手の問題ではなく、国の状況に起因するリスクをカントリーリスクと言います。

代金回収リスクの回避方法

次に、上記のような代金回収リスクの回避方法について説明します。

支払いサイトを100%銀行送金での前払いにする

これが一番確実に代金を回収する方法です。
単純なようですが、「代金をもらわないと商品を送りません」というスタンスでいれば、商品だけ取られて代金回収ができなかったという事態を防ぐことができます。
そううまくいくだろうかと思われるかもしれませんが、アジア圏は基本的に先払い文化である(お金を払わないと商品はもらえないという共通の商習慣・認識がある)ため、100万円程度までの取引であれば意外と前金で合意できることが多いです。
一か八か、まず交渉してみましょう。

国際信用調査を行う

有名なものは、アメリカの大手企業情報サービス会社であるDun&Bradstreet(ダンアンドブラッドストリート、D&B)の企業調査レポート(通称ダンレポートと言います)や、フランスの輸出保険・取引信用保険専門の保険会社であるコファス社の海外企業信用調査レポートなどです。
ダンレポートは日本の東京商工リサーチ経由で取得することができます。
コファス社は日本法人がありますので(コファスジャパン信用保険会社)、こちらからレポートを取得することができます。
上記の調査は相応に費用がかかりますが、財務諸表や支払い振り情報、取引業種や従業員数などの細かい情報を得ることができます。

そこまで詳しい情報は必要ないので最初はあまり費用をかけずに進めたい、という場合であれば、100%政府出資の公的輸出信用機関である日本貿易保険(NEXI、ネクシー)の「海外商社名簿格付一覧」を利用することをおすすめします。
こちらでは会社名称、格付、業種、住所といった簡易な情報しかわかりませんが、登録を行えば無料で見ることができ、取引先にある程度の信用力があるかどうかを測ることができます。
取引先が名簿に載っていない場合は、中小企業からの申し込みであれば年間8件まで無料で取引先の信用調査を行ってくれます。

信用状(Letter of Credit=L/C)を利用する

前払い希望と後払い希望で拮抗したまま商談が前に進まなかったり、輸入者がどうしても後払いでないと購入しないと主張したりする場合には、信用状という仕組みを利用するのもおすすめです。
これは大まかに言うと、輸出者の取引銀行と輸入者の取引銀行が輸出者と輸入者の間に入り、お互いの与信を担保に貨物の出荷とほぼ同時に銀行が輸出者に対し代金の立替払いをしてくれるので、輸出者も輸入者もタイムラグなく商品と代金を交換できるという仕組みです。
電信送金に比べて作業が多いため、初めての場合だとやや煩雑に感じますが、慣れてくるととても使いやすいシステムです。一時利用者は減少していましたが、最近は弊所にもL/Cを使いたいと相談に来られる方が増えてきています。

貿易保険を利用する

信用調査の項で少し触れた、日本貿易保険(NEXI)で掛けることができる信用保険です。
輸入者がどうしても後払いにしてほしい、信用状は使いたくないと主張した場合、後払いの部分に貿易保険を掛けておくことで未払いが発生した場合のリスクヘッジができます。
一般的な中小企業輸出代金保険であれば、取引先の倒産、理由の無い3ヶ月以上の未払いなどに加え、戦争や内乱、輸入規制などのカントリーリスクが起こった場合にもインボイス金額の95%の保険金が下ります。
貿易保険を利用する際は、保険料を商品代金に計上しておくのを忘れないようにしましょう。

リスク6 知財リスクとその回避方法

商標や特許、意匠権などの、人によって生み出されたアイデアや創作物の権利を「知的財産」、略して「知財」と言います。

知財リスクの具体例

知財リスクの具体例を紹介します。

自分達の商品の偽物を作られてしまうリスク

商標権は、メーカーだからといって自動的に与えられるわけではなく、全くの第三者であっても基本的に出願を行った人に権利が与えられます。
偽物のメーカーに先に商標を取られてしまうと、あなたは偽物に対して「これは偽物です」と主張することも、販売を取りやめさせたりすることもできなくなります。

自分達の正規の製品を現地で売ることができないリスク

偽物を作られるだけならまだ良いのですが、偽物の会社があなたの会社の商品を「偽物だ」と主張し、その国での販売差し止めを申し立ててくることもあります。
その場合、あなたは本物のメーカーであるにも関わらず、商品をその国で販売できないといった状況が起こります。
有名なところだと中国での無印良品の展開が挙げられます。無印良品は中国展開の際に先に別の無関係な企業に「無印良品」の商標権を先に取られてしまったため、やむなく新しく作った「MUJI」という商標で販売せざるを得なくなりました。

知財リスクの回避方法

できれば本格的な進出前に、その国での商標登録を行っておくことが望ましいです。
展示会などに出展すると色々な人の目に触れて知名度が上がってしまうので、それがきっかけで商標を先に取られてしまったということもよく聞きます。
注意したいのは、日本国内で商標登録を行っていても他の国で権利が守られるということはなく、進出先の国ごとに出願を行う必要があるということです。(一括して複数の国に出願する「マドプロ出願」という制度もあります)
ただ国内で商標登録を行っておくと、海外へ出願する際にJETROや都道府県の発明協会が毎年行っている外国出願費用の助成制度を利用することができます。

リスク7 価格トラブルに関するリスクとその回避方法

日本では価格を伝える時に「税込か税抜か」「送料込か送料別か」をきちんと伝えれば価格に関してトラブルが起こることはあまりありませんが、貿易取引の場合は税金や送料以外にも数多くの輸出に掛かる経費が発生するため、輸出者と輸入者の間で認識が一致していないとトラブルが発生します。

価格トラブルに関するリスクの具体例

例えば日本で「国内渡し(関東渡し、大阪渡し等)」「博多港渡し」と言った場合、指定場所で貨物を引き渡せば終了になりますので、商品代金には指定場所までの輸送費を計上しておけばトラブルになることも損をすることもありません。
一方貿易取引の場合は、同じ「博多港渡し」でも輸出に特有の経費が追加で掛かってきます。例えば港で貨物をコンテナに詰めたり、コンテナを船に載せるために移動させたりといった港湾作業に掛かる経費や、輸出通関に掛かる費用、突発的な税関検査に掛かる費用などがあります。
こういった費用は「港渡し」という取り決めだけでは輸出者・輸入者のどちらが負担するのかはっきりしないため、商品代金に経費として計上していなかった費用が後から業者から請求が来て赤字になってしまったり、逆に輸入者側が商品代金に入っていると思っていた費用が業者から輸入者宛に請求が来てトラブルになることがよくあります。

価格トラブルに関するリスクの回避方法

価格提示の際はインコタームズ(貿易条件)を利用するようにしましょう。これは国際商工会議所が定めた規則で、貿易の際にこのようなトラブルが起こることを防ぐために取り決められました。
具体的には価格を伝える際に貿易条件としてローマ字3文字+地名を合わせて伝えることで、その価格にはどこまでのどんな費用が含まれています、ということが正確に伝えられるという仕組みになっています。FOB博多港、CIF基隆港など、みなさんも聞いたことがあるかと思います。

リスク8 訴訟リスクとその回避方法

日本の場合、買ったもので怪我をしたといったことがあってもいきなり訴訟を起こされることは稀だと思いますが、訴訟がより身近に存在する国もあります。

訴訟リスクの具体例

日本から輸出した食品に小さな石が入っていて歯が欠けてしまった、洋服に針が残っていて着た人が怪我をしてしまった等、製造物の欠陥により何らかの障害が発生した場合、製造物責任について海外の消費者から訴訟を受ける可能性があります。

訴訟リスクの回避方法

輸出前に海外での訴訟に対応した「海外PL保険」を掛けておくことでリスクヘッジができます。
保険会社に直接依頼する方法や、商工会議所や商工会連合会の会員であればそちらから申し込むことで割引を受けて加入することができます。

貿易の8大リスク、回避方法を知って賢い貿易を!

貿易の8大リスクのうち、思いがけず大きな損失を招きかねない4つのリスクについてご紹介しました。記事を参考にしっかりと対策を行い、より安全に貿易取引を進めていきましょう!

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