直接貿易も怖くない!貿易の8大リスクとその回避方法を徹底解説【前編】

貿易の8大リスクとその回避方法

こんにちは、AIBA認定貿易アドバイザーの石川です!

貿易を始めたい方がなかなか第一歩を踏み出せない理由の一つに、「貿易取引は国内取引と違って、騙されたり失敗した時のリスクが大きそうで怖い」というものがあります。
今回はそんな方に向けて、貿易取引のリスクとその回避方法を徹底解説します!

この記事はこんな方におすすめです
・海外展開を始めたいけれど、貿易ってなんとなく危なそうだなぁと思っている方
・貿易を行う際にはどういったリスクやリスクの回避方法があるのか知りたい方
・現在商社を通した貿易をしていて、直接貿易を始めてみたいがリスクが心配でなかなか踏み出せない方

知識がないと不安になるのは当たり前のことです。
まずは不安の正体=貿易取引にどういったリスクがあるのかを知り、それぞれのリスクに対する回避方法をしっかり学びましょう!

国内取引と貿易取引の違い

貿易取引とは、ある国と別の国(外国)との間で行われるモノやサービスの取引と定義されています。
つまり、私達が通常行っている国内取引と貿易取引の一番大きな違いは「別の国にいる取引相手と取引を行う」ということになります。
国が違えば言語や法律、商習慣なども異なりますし、国内よりも長距離の輸送になることによる弊害も生じてきます。
これらの理由から、貿易取引には以下のような特有のリスクがあると考えられます。

リスク1 言語(コミュニケーション)リスク

異なる国の相手とコミュニケーションを取る際は、必然的に異なる言語を母国語とする者同士でやりとりを行うことが多くなります。
どちらか片方、もしくは両方が母国語ではない言語で、かつ文化的背景も異なる相手とやりとりをすることになりますので、国内取引以上に慎重なコミュニケーションを行う必要があります。

言語(コミュニケーション)リスクの具体例

言語リスクの具体例について紹介します。

・翻訳ミスや通訳ミスによるミスコミュニケーション

言った言わない(これは日本語同士でも起こりうることですが)、外国語の解釈違いにより自分が言いたかったことが本来の意味で伝わっていなかった、また逆に後々こういう意味で言ったのではなかったと言われた等のトラブルが起こることが想定されます。

・時間観念や文化や商習慣の違いによる誤解

「日本の会社は返信が遅い」とよく言われるのがこれです。韓国、香港、台湾などのアジア系の会社では特にスピーディーな対応が求められます。日本のビジネスシーンではメールでのやりとりが主ですが、アジア系の会社では、LINEやWeChatなどのSNSツールを使用し、瞬時にメッセージをやりとりする方が主流になってきています。
日本国内では、ビジネスの取引相手には個人のSNSアカウントは教えない(連絡はメールのみ)、メールやテキストメッセージを受け取っても2時間以上既読にならない、もしくは返信をしないことは珍しいことではありません。しかし相手がアジア系の会社の場合は、返信が遅いというだけで「この会社はうちとの商売に興味がないのだな」と判断されてしまう可能性が高くなります。

言語(コミュニケーション)リスクの回避方法

翻訳ミスや通訳ミスによるミスコミュニケーションを回避するためには、「口頭だけでの確認を避け、合意事項は全て文書化すること」「翻訳ソフトを使用する際は必ず逆翻訳を行うこと」を心がけます。
また、せっかく自社の商品に興味を持ってくれた取引相手に「こちらも商売をしたい」という意思を伝えるためにも、相手からの連絡に対してはすぐに返信するようにしましょう。
特に韓国の方が相手の場合は即返信が鉄則です。すぐに返答ができない場合は「今運転中なので2時間後に連絡します」「今から会議なので上司と相談後明日中に返信します」のように理由を添えて返信します。

リスク2  輸出入規制のリスク

貿易取引の場合は国をまたいで物品が移動するため、物品が輸入される側の国の政府は、相手の国から自国民を害するような物品が入ってこないように厳格な規制を定めています。
また輸出する側の国の政府も、条約などで国際的に輸出入が制限されるような物品に対して輸出を禁止したり、または輸出前に何らかの手続きを行うような取り決めを行ったり、自国の安全を保障するために、自国の安全を脅かすような物品は無許可で輸出できないように制限をかけていることがあります。
そのため、国内取引では何ら問題のない製品でも輸出入となると売買が規制される可能性があります。

輸出入規制リスクの具体例

輸出入規制リスクの具体例を紹介します。

・ワシントン条約による規制

絶滅が危惧される野生動植物を保護するためのワシントン条約により、付属書と呼ばれるリストに記載されている動植物を輸出入する際は経済産業省に輸出入許可・承認の申請が必要になります。身近な例だと、化粧水などに含まれるキダチアロエエキスや、アロマオイルなどに使われるローズウッドオイルなどがあります。
ワシントン条約で輸出入が規制される動植物は、生きているものに限らずエキスやオイルなども含まれることに注意が必要です。

・残留農薬、添加物、畜肉系原料などの規制

青果物だと残留農薬、加工食品だと添加物や畜肉系原料が輸入規制の対象になるかもしれません。日本の食品は他国よりも安全だと思っている人が多いですが、実は残留農薬や添加物などの規制は日本よりも厳しい対応を取っている国が多く、日本ではOKでも海外ではアウトといった事例がよくあります。特に台湾はとても厳しいです。

実際に貨物を出荷してしまった後に輸入規制を受ける品目だと分かった場合、貨物は輸入できず、最悪のパターンは現地で滅却処分となるか日本への積戻し処分となります。

輸出入規制リスクの回避方法

上記以外にも様々な規制がありますので、まずは輸出入の準備段階で輸出入規制の有無について調査を行うことが大事です。
現地の輸出入規制については、既に海外に取引先候補がいる場合は現地の方から現地の当局や通関業者、税関に輸出入規制を確認してもらうのが一番です。まだ取引先候補がいない場合は、日本側で事前にJETROに相談します。
日本側の輸出入規制については、税関ウェブサイト内の「輸出統計品目表」(輸出の場合)「実行関税率表」(輸入の場合)から調査ができます。

リスク3 為替リスク

円建てで取引を行う場合は問題ありませんが、ドルやユーロ、元など外貨建てで取引を行う場合は為替リスクについても対応が必要です。

為替リスクの具体例

例えば輸出の場合、見積を提出した際は1ドル150円だったとします。その後為替が乱高下し、実際に商品代金が入金された時には1ドル100円になっていたとします。
そうすると、もし見積価格が10,000ドルだった場合、見積の時点では日本円に換算すると1,500,000円の売上になりますが、商品代金が入金された時点では日本円で1,000,000円の売上となり、入ってくるお金が想定よりも500,000円も減ってしまいます。
逆に輸入の場合は、相手方から見積をもらった時は1ドル100円、実際に商品代金を送金する時に1ドル150円になっていたとします。
そうすると、もし相手方からもらった見積価格が10,000ドルだった場合、見積の時点では仕入代金は日本円で1,000,000円と考えていたにも関わらず、実際送金する際には日本円で1,500,000円送金しなければならず、想定よりも500,000円多く支払うことになります。
これらを為替差損といいます。

為替リスクの回避方法

このような為替差損を避けるためには、まずそもそも外貨建てで取引をせず、最初から円貨で取引を行うという方法が考えられます。
円貨建てでの取引が難しい場合は、銀行で行える外貨予約というリスク回避方法があります。
これは、見積の時点での為替のレートで収益が確定できる場合、その後為替が上がろうが下がろうが、その時点でのレートで両替する権利を希望の期間(例えば3ヶ月後までなど)銀行に予約しておくシステムです。
ただし予測が外れて相場が有利になった場合や取引が締結しなかった場合でも予約をキャンセルすることはできず、かならず予約したレートで両替しなければいけません。
為替予約とよく似たシステムでキャンセル可能なものに、通貨オプションという仕組みがあります。
どちらもやり方については取引銀行の国際部に確認してみてください。

リスク4 輸送リスク

国内取引の場合、どれだけ遠い場所でもおよそ2~4日あれば到着しますが、海外取引の場合は1カ月ほど船に乗って(航路によっては赤道直下のコースなどで)輸送されることも珍しくありません。
また日本国内の運送業者であれば輸送の品質も高く安定していますが、海外の場合はその限りではないため、手荒い荷扱いにより貨物が損傷したり、紛失したりする危険があります。

輸送リスクの具体例

長距離の輸送により、天候や寒暖差などによる貨物の品質劣化(赤道直下を通る常温コンテナの内部は50度くらいまで上がることがあります)、運送中の衝撃などによる破損、コンテナの流出や盗難などによる紛失などが考えられます。

輸送リスクの回避方法

まずは輸送業者に相談して、包装資材や使用するコンテナについてしっかりと検討しましょう。例えば国内で販売する場合はシングルカートンの段ボールで十分でも、海外へ輸送する場合は輸送中の事故や破損を防ぐためにダブルカートンや強化段ボールを利用したり、段ボールのバラ積みではなくパレット梱包をしたりする必要があるかもしれません。


温度や湿度による劣化が懸念される貨物の場合は、温度がコントロールできるリーファーコンテナの利用や、乾燥剤を入れたバリア梱包なども検討してみましょう。輸送業者は海外輸送の際の梱包について豊富な情報を持っています。前広に相談することをお勧めします。

また、輸送時に発生した破損や紛失などを輸出者と輸入者のどちらが負担するかは、輸出入者が契約の際にお互いで取り決めた貿易条件(インコタームズ)によって変わります。
もし輸出者側が負担しなければならない条件の場合は、外航貨物保険を掛けて何かあった時に備えることが重要です。

貿易の8大リスク、回避方法を知って賢い貿易を!

今回は貿易の8大リスクの内、前半の4つについてご紹介しました。
貿易取引に特有のリスクについて理解できましたでしょうか?
次回は貿易特有の8大リスクの後半、代金回収や知財、訴訟リスクなどについて解説します!