その貿易知識、AIの嘘かも?ネット記事の誤りを見抜く実務の自衛術

その貿易知識、AIのうそ かも?ネット記事の誤りを見抜く実務の自営術

みなさんこんにちは。AIBA認定貿易アドバイザーの石川ゆきです。
みなさんは貿易実務をしていてわからないことが出てきた時に、

  • ・ネットで調べてみたけどサイトによって書いてあることが違う
  • ・サイトによっては全く逆のことが書かれている
  • ・訳がわからなくなって今度はAIに聞いてみたけど、また言っていることが違う!一体どれが正しいの…(絶望)

と思われたことはありませんか?

最近、貿易実務に関するweb記事が急増していますが、プロの貿易専門家から見ると内容に違和感を覚えるものが多いです。このような記事は、最近急激に身近になったAIを活用して生成され、専門家のチェックなしに公開されているのではないかと推測されます。

貿易は、手続きや判断を一歩間違えば法律違反や追徴課税を招きかねません。今回はそういった「危ない記事」に惑わされない方法をお伝えします。

この記事はこんな方におすすめです

  • ネットで調べた貿易解説記事の内容がバラバラで何が正しいかわからなくなってしまった方
  • 最近貿易実務でわからないことは全部AIに聞いているという方

AI記事にありがちな「間違いのサイン」

AI記事にありがちな「間違いのサイン」

まず、AIはとても「もっともらしい」嘘をつきます。
一見すると正しいような文章を、自信を持って、立て板に水のごとくすらすらと説明します。その理由は後ほど説明しますね。

ただし慎重に読むと、以下のような「間違いのサイン」を見つけることができるかもしれません。

最近の更新日なのにあげている情報が古い

輸出入規制やHSコードについて、最新の法改正が考慮されていない回答をすることがあります。

例えばHSコードを簡易的に調べたい時に「AIに聞く」という方や、Googleなどの検索画面でトップで出てくる”AIによる提案”を参考にされる方が多くいます。
しかし、HSコードはAIの回答の間違い率が特に多いテーマの一つです。
AIがHSコードを間違える原因の一つが、この「最新の情報が反映されていないため」です。

例外規定を無視した断定型の言い切りをする

AIが文章を作るときの行動パターンとして、「一般論」を「絶対ルール」に格上げしてしまうということがあります。
あまりに堂々と言い切った文章が多い場合は、ちょっと注意してみてください。

色々それらしいことを言っているが何が言いたかったのかわからない

一見すると知識がたくさん並んでいるのに、結局何が言いたいのかよくわからない。タイトルは知りたい内容に合っているのに、本文を読んでも核心にたどり着けない──そんな記事は、AI生成記事に多く見られます。

これはAIが悪いのではなく、AI記事作成者のプロンプト(AIへの指示)が的確ではなかったのだと思います。

多くのAI記事作成者は、SEO対策(検索の際に自分の記事がたくさんヒットするための対策)のために、AIに「〇〇についてSEO対策のキーワードを入れて3,000文字くらいで書いて」と指示することが多いです。
しかしAIには、例えば実体験を語るなど新しい情報を自ら作成する能力はありません。”3,000文字に近づける”ことと”キーワードを入れる”ことを目的に、〇〇に関する少ない情報を引き延ばしたり、言い方を変えて何度も繰り返したり、直接的に関係ないけれどよく同じ文脈で説明されている情報をそれらしく付け加えたりするために、なんだかよくわからない文章になってしまうのです。

なぜAIは「堂々と」間違えるのか?

前述のとおり、AIはとても堂々と「もっともらしい」嘘をつくことがあります。なぜそのようなことが起こるのか気になりますよね。

AIの仕組みや特性を理解すれば、そのカラクリがよくわかります。

実はAIは「確率」で言葉を選んでいるだけ

AIは、本当に法律や貿易手続きを理解して説明しているわけではありません。膨大なウェブサイトを学習した結果「この言葉の次にはこの言葉が来る可能性が高い」という計算で文章を作っています。


例えば、「米国に食品を販売する際に必要な手続き」を調べたいときに、正しい情報は「米国に食品を販売する際に必要なのはFDAへの食品関連施設”登録”」ですが、「FDA認証が必要です」という誤った説明をしていることがあります。
その理由は、「FDA」という言葉の後ろに「認証」や「Certificate」と書いてあるウェブサイトが多いため、AIはそれをそのまま繋げて「FDA認証が必要です」という文章を作ってしまいます。AIに悪気はないのです。

ただ、誤ったデータを学習したり、単なる”文章上の繋がり”を誤解したAIが誤った記事を生成し、それをまたAIが学習して誤った記事を再生産することが続くと、将来的には生成AIに作らせたインターネット上の解説記事は誤ったものだらけとなり、信頼できるものではなくなってしまうでしょう。

「例外」や「但し書き」に弱い

前述の通り、AIは「この言葉の次にはこの言葉が来る可能性が高い」という計算で文章を作っています。

そのため、ネット上の膨大なデータの内9割に「AはBである」と書かれていると、残りの1割に書かれている「ただしCは除く」という重要な例外を「統計的なノイズ」として切り捨ててしまう傾向があります。

またAIは「正しいかどうか」よりも「人間が読んで自然な文章か」「人間が有益と感じるか」を優先して言葉を選びます。

「条件によって異なります」という曖昧な文章よりも、”説得力のある言い切り形”の方が人間から「有益だ」とフィードバックを受けやすいのです。

情報が1~2年前で止まっている場合がある

なぜ最新の情報が反映されていない回答をするかというと、AIは学習したデータから文章を作るのですが、その学習時点までのデータしか参照することができないからです。

また最新の情報まで網羅できていたとしても、膨大なウェブサイト上には古い情報の量の方が圧倒的に多いため、AIはこの「情報量の多い方」を正解だと判断してしまうのです。

私も先日AIと、しいたけのHSコードについて戦ったのですが、AI側が珍しく折れず、詳しく調べてみるとAIは最新のHS2022の改訂を考慮していなかったということがありました。(つまりAI的には”正しい”情報だったのですね)

貿易実務における「AIの間違い」と「現場の正解」比較例

テーマAIのよくある間違いプロが知っている
現場の正解
なぜAIは間違えるのか?
米国FDA「米国へ食品を輸出するには、FDAの認証(Certification)を取得し、証明書を発行してもらう必要があります」FDAは「施設の登録」を求めるものであり、「認証」や「証明書」の発行は行いません。ネット上に「FDA登録代行業者」の広告や、「Certificate」という言葉が溢れているため、それを学習して「認証が必要」と変換してしまう。
HSコード「〇〇(商品名)のHSコードは、〇〇〇〇.〇〇です。(と断定する)」HSコードは商品の材質や用途、最新の条約改正によって細かく変動します。AIの回答をそのまま信じるのは非常に危険です。過去の古いデータや、海外の異なる統計番号を「これだ」と予測で提示してしまうため。
インコタームズ「海上輸送でコンテナを使うなら、FOB(本船渡し)が最も標準的な条件です。」コンテナ船の場合、リスク移転の観点からFCA(運送人渡し)が推奨されています。FOBは在来船向けの条件です。多くの古い実務解説サイトや、商習慣として残っている「FOB」という単語の出現頻度が高いため、最新の推奨を無視してしまう。

騙されないための「情報の自衛策」

正しい情報の取得

AIの特性を理解したところで、AIが生成する情報を鵜呑みにして失敗しないための自衛策についてお伝えします。

各官公庁、税関、JETROなどのウェブサイトを確認する

現時点で一番有効な対策は一次ソース(官公庁、税関、JETROなどのウェブサイト)の確認です。
解説記事はあくまで情報の入り口として捉え、書いてある内容は鵜呑みにせず、一次ソースで必ず検証しましょう。

例えば前述したHSコードを確認したい場合、簡易的に知りたい場合は税関の事前教示回答事例でキーワード検索をしてみましょう。
一番間違いがないのは税関から事前教示回答を受けることです。
輸入の場合は書面で回答を受けることができ、その内容は3年間有効です。

輸出の場合は口頭かメールで回答を受けることができますが、実際の通関の際にもその内容が適用されるとは限りません。必ず回答の内容、日時、担当官の名前をメモしておきましょう。石川の経験上、メモがあったからといって必ず適用されるとは限らないのですが、少しは考慮される可能性が上がっているような気がします。

サイト運営者を確認する

非常に残念なことですが、中には「情報の正確性」よりも「自社サイトへのアクセス数(SEO)」を優先しているサイトも見受けられます。

例えば、貿易そのものが本業ではないIT系企業や、特定のプラットフォームへの集客を目的としたメディアなどでは、記事を量産するためにAIを使用し、また正誤をチェックできる専門家が不在のためノーチェックでアップしているケースが散見されます。

試しに「FDA認証」で検索してみてください。堂々ともっともらしい記事が出てきたサイトは要注意です。

一方、長年実地で貨物を動かしている大手物流企業などは、自社の情報に責任を持つ必要があるため、比較的信頼度が高い傾向にあります。

ただ残念ながら貿易関係の企業であっても誤ったAI生成記事を堂々と載せているウェブサイトをいくつか発見しています。それに備えて、次の対策も行ってみてください。

自分の得意な分野の記事を読んでみる

人は、知らないことに対しては誤った内容やよくわからない結論を「そうなのか」と受け入れてしまうことも多いのですが、少しでも知っている内容であれば明らかな間違いや小さな違和感に気がつきやすいです。

検索して出てきた”知りたいこと”の解説記事ではなく、そのサイトの中の”自分が得意な分野”の記事を一つ読んでみて、違和感がないか確認してみるのも一つの手です。

図解の画像に違和感がないか確認する

ネットの解説記事に挿入されている画像が何かおかしい場合、画像だけでなく内容も生成AIで作られているかもしれません。画像のおかしさにも気がつかないようなサイト運営者は、文章の中身も精査できていない可能性が高いです。

ネットでの裏取りには限界がある

ここまでAI記事の自衛術をお伝えしてきましたが、正直に申し上げると、小さな違和感をキャッチし、これら全ての一次ソースを自力で、かつ最新の法改正まで完璧に網羅してチェックし続けるには、膨大な時間とそもそもの専門知識が必要です。

貿易担当者の本業は、調査そのものではなく、滞りなく貨物を動かすことです。

「ネットの情報に振り回されて不安だ」「AIの回答の真偽を確かめる時間が取れない」、そんな時は、無理に自力ですべてを解決しようとせず、プロの知見を頼ることも一つの強力な自衛策です

ネット記事を過信せず、専門家とともに確実な正解を

専門家のアドバイス

AIは「統計上の正解」を教えてくれますが、貿易実務で必要なのは「現場の正解」です。
AIにとって例外はたったの1%かもしれませんが、その1%が貴社にとっては100%の損失(滅却や積戻し)になるかもしれません。

間違ったアドバイスをすればお客様の貨物が廃棄されるという現実的な重みのある私達と違い、AIは現実の貨物がどうなっても痛みを感じないため「文章のもっともらしさ」を優先してしまいます。

AIは、使い方さえ間違えなければ貿易を行う企業の強力な味方となります。
ただ、インターネットで調べても正解がわからない時、真偽を確かめる時間が取れない時は専門家への相談が有効です。
AIと貿易の専門家をうまく使い分けて活用し、正しい知識で貿易を行いましょう。

坂田貿易支援事務所の貿易アドバイス業務のご案内はこちらです。

執筆者:石川ゆき(坂田貿易支援事務所 代表)

約20年の実務経験を持つ、AIBA認定貿易アドバイザー。複雑な規制や日々変わるルールの海で、貿易に挑む企業様が迷わないための「羅針盤」であることをモットーとしています。正しい知識を武器に、貴社のビジネスを共に広げていくお手伝いをしています。
本記事が、貴社のリスク管理の一助となれば幸いです。